
第3番「牧歌」
8分の6 ト長調
<学習ポイント> 装飾音(小さい飾りの音)・和音の保持
牧歌ってなに?
この曲をやる時に生徒にこんな質問をしています。
「アルプスの少女ハイジ知ってる?」
これね、一昔前だったら、結構皆「しってるー」とか言ってくれて「うふふ あんな感じの風景をイメージしてねー」なんて会話が盛り上がりました。
ただ、今は「知らない」と言われることが多いです。もうハイジは一般的ではないようです。


牧歌(パストラル)は羊飼いや農民などの生活を主題とした詩歌であり、まさにペーターがそれです。
ペーターがあの素晴らしいアルプスの大自然の中で、羊たちを引き連れながらのんびり歌でも歌っているとイメージするといいかと思います。

曲の冒頭には情報が沢山
楽譜の最初の部分でかなりの曲の情報を得られます。
もうどれもこれもとても大事。

まず速さ。Andantino(アンダンティーノ)はAndante(アンダンテ)よりも少し速く、です。

アンダンテって歩く速さだよ

調性:ト長調。ソシレの和音がとても重要ということ。
拍子感:8分の6拍子はパストラルの特徴。ゆったりとした2拍子で感じて弾こうね、ってこと。
強弱:p(ピアノ)なので弱く
dole cantabile: dolce(ドルチェ)はやさしく、cantabile(カンタービレ)は歌うように。牧歌と呼ばれる曲の場合割とcantabileとセットのことが多いです。それだけ「歌なんだよー」ということ。
ちなみに「舟歌」という題の曲の場合も同じスタイルのことが多いです。
興味のある方は22番の「舟歌」もチェックしてみてください。8分の6、cantabile(13小節目)と書いてありますから。

このように、どんな曲か知らなくても曲の大体の雰囲気がわかるのです。楽譜って大事。
歌うように弾くには?
じゃあカンタービレってどうやって弾いたらいいでしょうね?
まずは鼻歌でもいいので冒頭2小節お歌を歌いましょう。
これね、「右手だけだし楽勝ー!」とかって何も考えないで弾くと
「え?お経?」
という演奏になります。

演奏には「自然な抑揚」というのが大事です。
普段の話し方だって絶対に抑揚はついているはずです。声の高低がなくてロボットみたいな話し方だと不自然に感じますよね?
そして音楽の場合はその自然な抑揚は「音符の並び方」から読み取ります。
私にはこのように感じます。

この曲の場合はあくまでも動きは直線的ではなく、曲線で。弧を描くように。
高い音に向かう時は文字通り「向かうように」
低い音に向かう時は「降りるように」
とりあえずの基本です。
もちろん低い音に向かって段々強くする場合もありますが、大抵そういう場合はクレッシェンドなどのなにかしらの表示がついていたりするものです。
話し方はひとそれぞれなので、この短いフレーズをどう捉えるかもその人の個性ですが、どこをどう見てもこの場合はソが頂点だよーって作曲者は言っています。
ソから始まり、ソに向かう。
最初のソは「ボン」って乱暴に入り始めないようにしましょう。びっくりしてしまいます。
左手の和音
さて、3小節目。

右手は1音しかないのに、左手は3音もあります。
ということは普通に考えると3倍。全部同じ強さで弾くと左手がとても大きくなってしまいます。
しかもこれ4連続弾くし、かなり気をつけて小さく弾かないと結構うるさい印象になります。
それから大切なのは「じゃっじゃっじゃっ」ってスタッカートで弾かないこと。
跳ねると「目立つ」のです。
11小節目。この曲調が変わり、左手ファ#ドと抑えながら弾くこの1の指のド!
これ間違いなく子供たちは強く弾きます。

くるだろなーくるだろなーと思いながら聴いています。

ここはもう絶対弱く弾いて下さい。
ちなみに赤松先生のこの演奏は、1小節目の「レレレー」は割と強めです。それは右手のラがそれだけ強い音を出しているからです。2小節目以降はグッと抑えています。
こういった高度なことはまだやらなくて大丈夫。
ただ、色々な演奏者を聴き比べてみると個性があって面白いですよ。耳も鍛えられていきます。
さて最後。
クライマックスです。感動的。
この左手のバスの音が下に向かっていって曲に広がりをもたせています。到着点の高いソに向かって歩んでくださいね。ちゃんとクレッシェンドもついてますし。

「ここに到着」っていうのちょっとおかしいですね。
正確には「ここに向かって」です。すみません。もう直したくない。
そして赤マークの「ここで終わり」のところで「おうちに帰ってきた」というような落ち着いた気持ちがほしいところです。
ト長調なのでソシレというⅠの和音を感じてほしい。
ここで何も感じないのは隣の家に間違って入っても「やれやれ帰ってきた。落ち着くわー」とかって全然気にしない人というのと同じことです。
調性というのはとても大切なのでめんどくさいもの、と嫌わないでくださいね。
右手の装飾音
装飾音は小さな飾りの音符。文字通りアクセサリーのように小さい音符でピロロンと記されています。
装飾音符をつける時に絶対に気をつけなければならないのは
メロディーラインの邪魔をしないこと
特に初学者のうちは音量もそうなのですが、メロディーそのもののリズムが崩れてしまうことが多いのです。
装飾音符はあくまでも「装飾」であり、キラっとつけることによってその音が強調されたり、ちょっと華やかになったり「より素敵に」するために使われるべきです。
人も同じ。
つけている人間よりもいかつくて大きいアクセサリーなんて変です。
装飾音符の練習の仕方は、「速く弾かなきゃ!」という思い込みからひたすら何度も速く練習しがちですが、まずはゆっくりと。
あきれるくらいゆっくりと。
装飾音の部分は触れるくらい極端に弱く、そしてメロディーは極端に強く弾く練習をしてみて下さい。

装飾音が苦手な場合、どうしても力んでしまって、気合がはいりすぎるせいかすごく強くなってしまうことが多いのです。
ですからいったん頭を冷やすようなつもりで心穏やかに装飾音を弱く弱く。
音量の加減がつかめてきたらメロディーとつなげて一気に弾くようにしてみましょう。
それからもう一つ、装飾音なしでも練習すること。
これは本来のメロディーがどんなものだったか確認するためです。
飾りのせいで色々と見失うことが多いので、落ち着きましょう。
