ちぃちゃん(小2女児)
レッスン室に入るなり、
「ちぃちゃん1時間れんしゅうしたの!」とアピール。
ちぃちゃんすごいな!
この短い8小節の曲を1時間弾き続けるのはトランス状態に入らないとむずかしそう。
とにかく早く弾きたい、聞いてもらいたいが止まらなくていそいそと譜面台に楽譜を置く。
いつもは最初に「指の体操」と称する指の準備運動をするのだけど、そんなことすっかり頭から抜けている。この勢いと熱い思いをまずは受け止めたい。
「ちぃちゃん弾くからね?先生聞いててね?」
もちろん。あなたの演奏を聞くために先生はここにいます。なんならそのためだけにこの時間は存在しています。
「いくよ?」
はい。
それからちぃちゃんはおもむろに楽譜に貼ってあった「ラ」と書いてある付箋を鍵盤に貼りはじめました。ラの場所がわかると簡単なのだそうです。
観客の興味をいいだけ引っ張ってからのこの行為。なかなかじらされます。
「いくよ?」(2度目)
はい。
演奏時間15秒。完璧。拍手。
ちぃちゃん素晴らしいよ!いつもより自信のあるしっかりした大きな音。1つの迷いもなく最後まで弾ききり、もちろん弾き直しをミスもなし。一発でこれができるというのは本当に練習していた証拠。
時間が読めないんじゃなくて本当に1時間練習したんだね!すごいよ。先生感動したよ!
早く進むことが目的の子は合格することに喜びを感じ、次の曲に早く行きたがりますがちぃちゃんは弾けるようになってから楽しむタイプ。
「もう1回ひくね?」
いいねいいね。先生も伴奏部分一緒に弾いていいかな?「いいよ」とお許しをいただいて一緒に弾く。
そして上手に弾けて二人で拍手。お母様も「おー」と歓声をあげて場を盛り上げてくれます。
「今度はまた1人で弾くね?4回弾く」
そうかそうか。何回でも満足いくまで弾いてくれたまへ。多分この調子だともう1冊は今日は無理だな。
いいだけ弾いたあと今度はこんなことを言い出しました。
楽譜のト音記号の上に「☆うたに合わせて鈴をならしてみましょう」と書いてあります。ちぃちゃんはここを読んで鈴を鳴らしてくれる人がほしいと思っていたようです。
そういえばこの理由で前回の発表会の時、他の生徒さんにカスタネットとウッドブロックを手伝ってもらったんだよね。
「ここには鈴ないから先生カスタネットたたいて?」
素敵な提案ですね!先生やらせていただきます。
ちぃちゃんはこのコラボが気に入ったらしく、何度も弾きたがります。何度も弾くと余裕が出てくるので少しこちらも要求してみました。
「今度はちぃちゃんが合図だしてみて」「わかったー」と、「せーのーさんはい」と合図を出してくれました。
上手。では次はもう少し難易度をあげます。
「今度は声を出さないで、息を吸って先生に合図してみて、こうやってやるの」「やってみる!」
これ実はアンサンブルする時に大変必要なスキルで、呼吸で相手に合図を送るのですが慣れていないとなかなかできません。
最初は吸いながら弾き始めちゃったりしてましたが、回数をこなすうちにできるようになってきました。
思いがけず高度なレッスンができたわ・・今日はもう十分ねと私1人満足しているところに
「ちぃちゃんね、おうちで練習してる時すずないから口で鈴やってたの」
え。どゆこと?先生聞きたい!
「やるから聞いててね?」
うんうん。
なるほど。舌を上顎につけてトゥットゥッって鳴らすわけね。舌で拍子を取りながら両手で演奏はむずかしいようで何度も間違えてしまいます。
「また失敗しちゃった。これねむずかしいの」
確かにむずかしい。先生もこっそりやってみたけど口が疲れるし普通に歌ったり、足で拍子取る方が簡単だな・・・でもこれを黙々と1人で家でやってたんだと思うとなんかこう胸が熱くなっちゃうな。君は色んなこと考えて工夫してこの曲を楽しんでたんだね。
そしてひとしきり楽しんだあと、
「今度は先生とひくー。先生の出番きたよ?」
はい!やっと先生のピアノの出番がやってきました!頑張ります!
「ちぃちゃん間違ったらどうしよう?」これだけやっていまさらそれ言います?
「大丈夫大丈夫。ちぃちゃん止まったら先生も止まって待ってるから。絶対合わせるから」
「よかった」
そしてようやく満足して○をつけてシールを貼ってこの曲は合格となりましたが、今度は過去にやったページをめくりはじめて弾き始めました。
エンドレス