第9番 狩り
8分の6拍子 ハ長調(調号なし)
狩りは当時の娯楽
まず「狩り」とは何なのかを知る必要があります。曲のイメージ大切ですから。
狩りは動物を狩ることですが、当時の西洋人にとっての狩りは夕食のためのものではなくスポーツの一種としてのものでした。
スポーツフィッシングとかと同じ感じだね
娯楽のために動物を狩ることの良し悪しはおいといて、当時の流行りでした。狩りが当時ポピュラーであったことは他の作曲家の作品も存在していることからわかります。
狩りは角笛の合図から始まります。
冒頭の左手は狩りの合図の角笛
角笛
この角笛が表現されている箇所は冒頭の4小節
この冒頭を見るだけで何かが始まるというのがわかります。
pから始まりクレッシェンドしてf。音が段々強くなっていき、音も高くなっていっています。どうみても4小節目のfに向かっていますので一気にひとまとめ!生き生きと躍動感を持って弾こう!
ここの左手はドミソのⅠの和音の基本形から始まり、転回されていってます。なのでソシレが出てくるまでドミソしかないんです。
たくさん音があるようだけど、2種類の和音しかないんだねぇ
左手の和音は全てのドミソにスタッカートがついていますが(版によってはスタッカーティッシモ)、同じ重さで弾くと重いです。四分音符よりも八分音符を軽く弾くと平坦な演奏になりません。
右手の連打
連打とは同じ音を連続して弾くことです。
ゲームでもよく使う言葉だね
ピアノで同じ音を連続して弾く場合は同じ指を使いません。「1111111(指番号)」とか「22222」とかは無しで。勿論例外もありますが、基本は違う指を使いながら弾きます。初学者ならまずはこの運指を習得します。
初めての連打に夢中で取り組んでいるところに水を差すようなのですが、ここは左手がメロディーです。
うちの生徒さんの場合はこの右手に夢中で「左手メロディーだよー」と言っても「それどころじゃない」みたいな雰囲気だしてきます。
左手メロディーなんてまったくきづかなかった
ここ左手きれいなんですけどね、ホルン5度という特徴のある和声進行が使われてて印象的なんですけどね、全く余裕ないのでスルーされる感じですね。
どうしても人はむずかしい方に意識がいってしまいます。
でもこれは本当にピアノあるあるで、伴奏がとてもむずかしい場合そちらに気をとらわれがちでメロディーがおまけみたいになってしまうこともよくあります。
むずかしいことをむずかしくないと感じるくらいまで練習して身体に染み込ませて、優先順位を2位くらいにできないとメロディーに意識はいかないです。
とはいえ、初めての連打で手一杯なのにそうそう余裕を持って左手メロディーを奏でられる人はいません。大丈夫。皆いっしょ。
13小節目からの転調
ここから雰囲気が変わります。ハ短調に転調しています。
変化を感じられていますか?
13小節目のところにいつもの1本線の縦線ではなく、2本の複縦線が書かれています。複縦線はこういった曲の区切りや転調するときなんかによく出てきます。
そしてとても大切な「un poco agitato」。ウン ポコ アジタートと読みます
- poco 少し
- agitato 激して、興奮して、動揺して、せき込んで、不安な
このようにアジタートは調べると沢山の意味があります。どう解釈するかによって曲のイメージが変わるのでこういった沢山の意味を持つ言葉の場合は言葉の本来の意味を調べてみると面白いです。
こちらの辞典は単なる多くの楽語を調べるためのものではなく、よく使われる約80の楽語について詳しく書かれています。
この本私も持っていますが本当にオススメ。一家に一冊。
人によってはこの箇所は不穏な空気を感じたり、お天気が悪くなってきたと感じる人もいたりさまざまです。
細かいクレッシェンドやデクレッシェンドも見逃してはなりません。これがあることにより躍動感が生まれます。
私は馬の疾走をイメージしていました。なんにせよ、少し緊迫感が生まれる場面ですね。
言葉の意味を正しく理解したら、あとの解釈は自由でいいんだね
29~36小節目 イ短調に転調
この曲の最もドラマチックな変化のある転調箇所。ハ長調から始まった曲はここで平行調のイ短調に転調します。
音楽において長調→短調、または短調→長調の変化はとても大きな変化です。頭で理解するだけではなく、変化を「感じて」下さい。
ここすごい感情が揺さぶられます。dolente「悲しげに」とも書いてあるし。一体何があったのでしょう。
全音版の解説によると「狩られる側の動物の心情」とありましたが、子供の頃はこれを読んで泣いてしまいました。
やられる
平穏に暮らしている動物たちの立場で考えるととんでもないことが起こっているわけです。
ただこれは正解の解釈ではありません。人によってはこの解釈だと悲劇的すぎるから違う解釈をするという人もいますし、それは自由です。
ただよく考えて想像することはとても大切です。それには知識も助けになります。当時の生活を調べてみたり本を読むとより深く考えられるようになります。自分で調べて自分で感じたイメージは演奏に説得力を持たせます。
37小節目からラストまで
37小節目からまた最初と同じ部分が出てきます。
ほんとに個人的な意見なのですが、私この変化に心がついていけないんですね。中間部で「狩られる側の動物たちの心情」でなんて残酷なんだ・・・と胸が締め付けられてる最中なのに、あっという間に場面変わって「ソソソ ソソソ」と切り替えが追いつかないんです。
この曲を弾いたのは今から40年ほど前ですが、今の方がその気持ちが強いです。私にとって悩ましい曲の1つです。
45小節目からラストまでのコーダ
いよいよ終盤。1曲目から順番に学習してきた学習者さんには初めての見開き2ページの曲です。
これくらいの規模になると終わり方もコーダ(曲の終わりの部分)らしくなります。
強弱も多く変化に富んでいます。強弱スルーしちゃだめですよ?
緑の部分なに?数字は?
むちゃくちゃリズムや和音の個数間違えるところ
数字は小節数カウントせよ、という数字
この緑部分🟩ほんっとに皆適当になります。ドミソが何個も続くとわからなくなるんですね。で、弾いてる方も数えるの面倒だからどこかで「まあいいや」みたいになっちゃって若干思考停止してます。わかります。ここちょっとややこしいんです。
あと「あってるかどうかわからない・・・」と自信なさげに弾く子も多い。
とにかくこの箇所で見事に前半の勢いは消え、「なんかよくわからないけど弾いちゃえ」的な非常に残念な現象が起こる箇所なんです。
一日でいいから、腰すえてがっつり数えて!数えればできるから!
緑の数字部分(小節の頭)に何の和音がきてるのかよく考えて!
これ家でやらないと、レッスンで15分くらいロスします。ほんと勿体ない。
数えてもできない場合は先生とやりましょう。でも、まずは自分でも努力して下さいね。
ラストの1段はf→mf→p→ppと階段を降りるように弱くなっていってますので段階的に弱くしていきます。そしてppの弱音を受け取り、自然にゆっくりして曲が閉じられます。
狩りの宴の終わりなのか、馬が走って見えなくなる様子なのか、森に平和が訪れた静寂なのか、正解はありませんが是非自分のイメージを作り出してみましょう。